〜新会社法が中小企業経営に及ぼす本当の影響〜
平成18年6月19日
「原則禁止の事前規制社会」から「原則自由の自己責任社会」へ

 「新会社法について」
 昨年6月に106年ぶりに全面改正された商法によって新たに誕生した会社法が今年の5月1日から施行されました。巷ではこの新会社法に関する情報が氾濫し、かなりの方が新会社法について既に勉強していることと思います。したがって、税理士である私が皆様の前でこの会社法について語るのはまことに僭越なのですが、中小企業経営者の立場から「今度の会社法が中小企業経営に及ぼす影響」という観点からはなはだ短い時間でありますがお話させていただきたいと思います。

 さて、まずこの新会社法が誕生した意味とその背景ということについてお話しますと、商法が改正された理由は様々ありますが、最大の理由は経済のグローバル化への対応にあります。日本の金融制度や会計制度がグローバルスタンダードから著しく乖離しているということで、外圧により金融ビッグバンや会計ビッグバンを行わなければならなかったわけですが、その総仕上げともいうべきものがこの新会社法であるといっても過言ではありません。世界的な大競争時代に対応し、日本企業が世界市場で生き残っていくためには、日本独自の規制を大幅に緩和しなければならなかったわけです。
 新しい会社法では、
@ 株式会社と有限会社を統合し、取締役の人数制限や類似商号や最低資本金規制等諸種の規制を緩和
A 事前規制の代わりに定款自治を大幅に拡大し自由な経営を拡大、
B 自由な機関設計や会計参与制度の創設等、企業経営の効率性と健全性を確保するための企業統治の重視、
C 配当の自由化や多様な種類株式の容認等により企業金融における市場機能を
重視、
D 合併対価の柔軟化や敵対的買収への防衛策の整備等により、M&Aに関する制度インフラを整備、
E 最低資本金制度や合同会社の創設等によりベンチャーを支援する。
という6つの観点から大幅な改正が行われています。

 問題は、これらの改正が中小企業経営にどのような影響を与えるのかということですが、この新会社法は中小企業を直撃するといっても過言ではありません。
 なぜなら従来の日本社会における企業規制は、「原則禁止の事前規制」であったのが、新しい会社法では「原則自由の事後規制」に変わるからであります。私たち中小企業は株主総会の招集手続きや株券の発行や決算公告など、商法で定められた明文規定のルールをきちんと守っていないことが多いからです。
 従来の商法では、株式会社は大きな会社を前提にルールが定められていたため、家族経営の株式会社である中小企業がその明文規定をきちんと守ることには少し無理がありました。したがって、日本の中小企業は「暗黙のルールは守るが商法の明文規定は守らない」ということになっていたわけです。
 ところが新会社法においては、株式の譲渡制限さえすれば取締役は1人でもいいし、取締役会や監査役も不要であり、家族経営の中小企業にふさわしい企業統治の選択が可能となったのです。したがって、どんな小さな家族経営の株式会社であっても、新会社法の明文規定ルールは、守らなければその責任を追及される時代が到来するのです。
大企業は従来から明文規定を守っていたのですから、中小企業こそこの新会社法の登場によって変革を迫られ、コンプライアンス(法令遵守)を要求されることになるのです。
 それでは中小企業がこの新会社法を守らなければならなくなることによって具体的どんな影響を与えるかということですが、最も重大な影響は、中小企業の会計に与える影響です。
 まず大きな影響を受けるのは、中小企業の会計に関する分野です。特に基本的な財務諸表の体系が大きく改正され、損益計算書の役割が修正され、資本の部が大きく変わりました。利益処分案がなくなり「株主資本等変動計算書」という新しい財務諸表を作成しなければならなくなりました。
 有限会社制度や最低資本金制度が廃止され1人でも株式会社ができるようになると、会社の信用力は会社形態や資本金の額等の形式ではなく実質で判断しなければならなくなります。そうなると当然、従来は軽視されていた「決算公告」が重視されるようになり、中小企業も決算毎に貸借対照表の公告が要求されるようになるでしょう。そして新しい会社法は、この貸借対照表を正確に現在の財政状態を反映するよう求めています。
 中小企業も守らなければならない会社法が、従来は上場企業にだけ要求された退職金債務の引当や固定資産の減損や為替ヘッジ差額の表示等を当然のように要求しているのです。
 そしてこのような財務諸表が中小企業も作成できるための制度として、公認会計士や税理士でなければ就任できない「会計参与」という制度と中小企業の会計基準たる「中小企業の会計に関する指針」を用意したわけです。
 中小企業の多くが、会計参与を登用してこの会計基準を使った貸借対照表を公告するようになると、中小企業の信用力はこの貸借対照表によって判断されることになるでしょう。
 会計上のことで、もうひとつ重要なことは、新しい会社法では役員報酬と役員賞与を区別せず、いずれも期間費用として捉えていることから、役員給与に関する税務上の取り扱いが大幅に変更されたことです。
 すなわち役員賞与は利益処分で行うものではなくなったために、事前に支払額と支払い時期を届け出ておけば、毎月同額でない役員給与も損金処理が可能となりました。その反面、期中で役員報酬を変更した場合の損金処理はかなり困難となります。
 それから、1人法人が簡単にできるようになったことから、90%以上の株式を同族で支配している会社(特殊支配同族会社という)に対する役員給与課税が強化されました。なんと、その会社の中心人物(主宰する役員)に支払った役員報酬の一部(給与所得者控除額相当)を損金と認めないという改正が行われました。たいへん不当な改正ですが、今後はこれらの課税への対応策を考えなければなりません。

 最後に、新会社法によって株主総会や取締役会や株式に関するルールが緩和され、定款自治が大幅に拡充されると、自己の会社に合った企業統治のスタイルを確立し、組織力を増した企業の競争力は高まります。そうなると、従来は一律であった組織が多様となり、企業統治力が中小企業の競争力格差を拡大することにもなりかねません。
 したがって、新しい会社法によって与えられた「正確な財務」や「コンプライアンス」という課題を、自社の新しい発展のための課題であると積極的に捉えることが重要であります。そして自社の経営上の基本である定款をきちんと見直し、自社の適正なガバナンスを確立することこそ急務の課題であるといえるでしょう。
 ご清聴ありがとうございました。
 (この原稿は、6月16日の熊谷ロータリークラブで卓話した要旨を参考までにお知らせにしたものです。)


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