遺言がないとたいへんな時代がやって来た!
平成19年7月23日
ますます深刻化する争族の実態とその対応策

1.急増する遺産分割を巡る「争族」
遺産分割を巡る「争族」の実態が変化しています。ご承知のとおり、新民法の施行によって、わが国の相続法制は全く180度変わりました。すなわち、戦前の「家督相続」から兄弟姉妹はすべて平等の相続分であるという、「均分相続制度」や遺言することによっても奪うことの出来ない「遺留分制度」が導入されてから60年以上経過するわけです。したがって、最近相続する人のほとんど全ては、戦後教育を受け新民法の下で育った人であり、権利意識が確立している世代になっているのです。
遺産分割を巡る協議がこじれ、相続人のうち誰かが家庭裁判所に調停の申し立てをすると、家庭裁判所は「家事調停事件」として調停を開始しますが、調停不成立の場合には「家事審判事件」として審判を求めることになります。最近の家事審判・調停事件の推移は下表のとおり昭和41年当時と比較すると約3倍以上に増加しています。

<遺産分割に係る家事審判・調停事件の推移>
西暦 家事調停 指数 家事審判 指数
1966 3312 100 617 100
1995 8,165 247 1,563 253
1996 8,639 261 1,555 252
1997 8,568 259 1,730 280
1998 8,708 263 1,594 258
1999 8,950 270 1,695 275
2000 9,162 277 1,748 283
2001 9,109 275 1,879 305
2002 9,237 279 1,986 322
2003 9,582 289 1,974 320
2004 10,083 304 2,071 336
2005 10,130 306 1,869 303
(家庭裁判所合計:司法統計年報より)

2.「遺言」は遺産分割には不可欠
家庭裁判所まで巻き込んでの「争族」は、実際の争族件数からするとほんの一部です。戦後教育の下で「権利を主張することが正義である」と教えられてきた現代の相続人たちにとって、「法定相続分を要求することは当然」の行為なのです。裁判所までいく争いは、実際の争族の氷山の一角でしょうから、実際の遺産分割協議で兄妹が争うことは、この数十倍であるといわれています。
このように現代は、権利主張の時代であり、多くの遺産分割で骨肉の争いが繰り広げられているにも関わらず、わが国ではあまり遺言が普及していません。2005年には全国で約108万人の人が亡くなったわけですが、この年に公正証書遺言を作成した人は僅か7万人足らずでした。
資産家に限っても、ほとんどの資産家は相続税の節税対策を行っていますが、遺言を遺して遺産分割対策を講じている人はそれほど多くありません。
相続税の節税が出来たとしても、遺産分割で揉めたために、祖先から引き継いだ財産が分散してしまった例は枚挙に遑がありません。重要な資産を守るためには節税対策だけでは片手落ちなのです。

3.資産家でなくとも必要な「遺言」
遺言は、「資産家が財産を守るために必要なもの」と思いがちですが、最近は資産家でなくても遺言がないためにトラブルになるケースが増えています。例えば、

@ 子供がいない夫婦で、夫が死亡したために唯一の財産である自宅を巡って亡き夫の兄弟と遺産分割争いになる。
A 被相続人の配偶者が認知症で、特別代理人を選任しないと遺産分割できない。
B 親の兄弟が自宅を建てている土地について、遺言がないため子が相続し、トラブルになる。

等のケースは少子高齢化の進行と共にたいへん増加しているのです。
どんなに親に尽くしたり、親の事業を手伝ってその事業の発展に貢献しても、「遺言」がなければ「法定相続分に従った遺産分割が当然」であり、家庭裁判所はその権利主張者の味方なのです。

4.「公正証書遺言」を作成しておきましょう
遺言の必要性について、多くの人は分かっており、頭では「遺言を遺そう」と考えている人は少なくありません。ところが、実際に公正証書遺言を遺す人はほんの一部でしかありません。そしてその最も大きな原因は、「まだ遺言を作成するのは早い」と思っているうちに、認知症が進んでしまったり、考えが変わってしまったりすることです。
特に高齢となって、家族の介護を受けるようになると、それまでは後継者に重要な財産を相続させようと思っていたのに、考え方を変えてしまう人がとても多いのが現実です。
健常時に考えることと、要介護者になってから考えることは全く異なってくるし、介護を巡って親族間の愛憎も変化するのです。そして「遺言の有効無効を巡る争い」もかなり多く、介護認定を受けるようになってから作成された遺言は、無効と認定されることも少なくありません。
そして相続争いは、その原因が生前における兄弟姉妹間の不公平感に起因していることがとても多いのです。健常者であるうちに、相続人たちのそれぞれの境遇に配意しながら、重要な財産の承継や事業の承継のために公正証書遺言を作成しておくことに「早すぎる」ことはありません。

(文責 龍前篤司)


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